相手の話をよく聞き、傾聴することは大切なことです。けれど、傾聴すればいいってもんでもないんです。時には、傾聴をしないことも大切です。
傾聴することの大切さ
人の話を傾聴することは大切なことです。相手の話を聞くことは、相手を理解しようとすることであり、相手に寄り添うことでもあります。人は誰しも自分のことを人に知ってもらいたいし、自分の気持ちを分かって欲しいもの。なので、相手を知り、気持ちに寄り添うために、傾聴することはとても重要です。
ビジネスの世界でも「アクティブ・リスニング」という言葉で広まっています。物やサービスを売るためには、顧客のニーズや、時には本人すら気づいていない隠れたニーズを掘り起こす必要があり、そのためにも相手の中にあるものを引き出すための傾聴やアクティブリスニングが大切です。傾聴の手法として相手の言葉をおうむ返しするバックトラッキングや、相手の動作に合わせるミラーリング、相手のペースに合わせるペーシングといったものもあります。
簡単に想像してみても、自分の話をきいてくれなかったら、寂しいですよね。なので、私はなるべく人の話を傾聴するように心がけています。しかし、それだけでは上手くいかないこともあります。
ときには傾聴をしない覚悟も必要
それを感じた身近な失敗例を1つご紹介します。昨年の忘年会でのこと。自分よりも役職が上の人ばかりの会の中、会の締めを指名され、一言話そうとしていると、周りの酔っ払った先輩方からいろいろと茶々が入れられます。普段から傾聴を心がけている私は、相手の話に反応することが染み付いてしまっており、その茶々の1つ1つに「〇〇ですかー、それも面白いですねー」「そうですねー」「それいいですね」とか思わず脊髄反射的に反応してしまいました。結果、ズルズルとなかなか締まらず、締めの一言は別の人に交代。傾聴してるシーンではなかったわけです。
もともと人前で話すことは大の苦手である私は、こういうシーンで上手く話せないコンプレックスもあり、それも重なってガッツリ凹みました。
この例以外にも、例えば会議であまりにも話しを聞きすぎて、時間内に終わりきらなかった、ということもありました。なんでも傾聴すればいいってもんじゃないな、と改めて思いました。
カウンセリングだって傾聴すればいいってもんじゃない
これは、傾聴することが大切と言われているカウンセリングのように、相手の悩み事や困り事を聞く時も同じです。私はカウンセリングを勉強しているところですが、カウンセリングにおいても傾聴だけではなかなか上手くいかないことがあります。
話し手が悩み事について話すとき、話していることは事実そのものではなく、あくまでも話し手にとっての真実であり、話し手にとってのストーリーです。
「あの人のせいでこんなに傷ついた」
「自分に力がないからこんなことになった」
「これをしたら、周りから批判されるに違いない」
これらは事実ではなく、話し手がそう思い込んでいる、話し手にとっての真実です。
事実でないものを事実であると話し手が思い込んでしまった背景には、話し手自身も気づいていない、話し手自身の信念や、思考の癖、底にある感情があります。そういうものは、傾聴しているだけでは語られないことが多く、いつまでたっても話し手の嘆きや愚痴や怒りのストーリーが話され続けて終わってしまいます。
話し手がただ話をきいて欲しいだけなら、聞くだけでも十分だし、話すことによって本人が自分で気がつくケースもあります。だから傾聴はもちろんとっても大切なのですが、話し手のストーリーがひたすら語られていくケースにおいては、もう一歩踏み込む必要があります。
話し手のストーリーの中に潜む隠れた原因が見えてきたら、聞き手は傾聴を越え、よりそこを深めるための質問をしたり、深めるためのワークをしたりすることで真の原因に踏み込み、深めていく必要があります。
ビジネスの世界でも同じで、傾聴によってお客様の困りごとが見えてきたら、例えば「なるほど、お客様の困りごとの真の原因はこれですね。それを解決するにはお客様の欲しがっているこの商品ではなく、こちらの商品を使ってこのようにすればいいのではないですか」みたいな感じで、傾聴を越えていく必要があります。
まとめ
前提として、傾聴はとても大切です。でも、ともすると傾聴のみに頼りすぎてしまうことがあります。また、傾聴しないことに罪悪感をおぼえたりします。でも、ときに傾聴をこえて踏み込む覚悟が必要だなと思いました。