書籍「日本のクラフトビールのすべて」の発売記念イベントに参加してきました。
「日本のクラフトビールのすべて」は、2013年に発行された書籍「Craft Beer in Japan」の日本語版です。マーク・メリ教授が各地のブルワリーをめぐって実際にビールを飲み、そのレビューをまとめた書籍です。北海道から沖縄まで、ほとんどのブルワリーが紹介されているという、すごい本です。
ただ訳すだけじゃない、翻訳の奥深さ
会場は、みなとみらい線馬車道駅から徒歩5分にある、馬車道タップルームです。修善寺にあるブルワリー、ベアード・ブルーイングの直営店です。
前半は、この本の翻訳を手がけた熊谷さんのお話です。「翻訳って、日本語に訳すだけでしょ?」と思ったら大間違いです。そこには、翻訳対象(この本であればビール)に対する深い知識と想いがありました。
例えば、”Black beer”。これを「黒ビール」とは訳しません。なぜなら、「黒ビール」という種類のビールはないからです。色が黒いビールには、スタウトやシュバルツ、ポーターなど、様々なスタイルのビールがあります。それぞれに特徴があり、「黒ビール」という一つにまとめることはできません。ただ訳しただけだと、うっかり「黒ビール」と訳してしまいそうですが、正確に訳すためには、正確なビールの知識が必要です。
もうひとつの例が”Smoky(スモーキー)”。これを「燻製した」とは訳しません。ビールのスタイルのひとつに「ラオホ」というスタイルがあります。燻製した麦芽を使用したビールで、いぶした香りのとても美味しいビールです。
ラオホの場合、「燻製した」と訳しても問題ありません。でも、麦芽を燻製していなくても、”Smoky”な香りがする場合もあります。こうしたビールに対して「燻製した香り」と訳すと、事実に反することになります。よって、「いぶした感じの香り」となります。
英単語に対してどういう日本語訳を当てはめるか。そこには、英語の知識だけでなく、ビールに対する深い知識と想いがあるのだと知りました。
ビールに星をつけるということ
後半は原著者であるマーク・メリ教授のお話しです。メリ教授は、実際に日本中のブルワリーを巡り、そこで飲んだビールについての意見を忌憚なく書いています。中には星1つ=大きな問題があるビール、なんていう厳しい評価もしています。
でも、「人は飲める量と買える量には限界がある」と教授は言います。すべてのビールを飲むことができないからこそ、星をつけて評価することが読者のためになる、との考えから、飲んだビールの評価をしているそうです。
まとめ
著者と訳者それぞれのビールに対する熱い想いが伝わってきたイベントでした。また、ビールのことを文章にするとき、言葉の選び方がとても重要なことだと気がつかされました。
この本を片手に全国のブルワリーを巡る、なんて想像しただけでわくわくしてきます。